Amazon.co.jp: 喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし): 森 博嗣: 本

「元を辿ると、そもそもね、他人に認めてもらうということが、信じられないくらい面倒な行為だよね。これよりも面倒なことって、そうそうないというくらい面倒だ。くわばらくわばら」

僕は、森博嗣のファンなのですが、ファンであるがゆえか、なんとなく、短編やエッセイは、食後のデザートみたいに考えていて、ひと通り長編やシリーズを読み終えてから、手をつけようと思っていたのですが、これについては、書店で何ページか斜め読みした時点で、引きこまれてしまったので、レジへ持っていかざるを得ませんでした。
内容は、ある研究者が准教授になるまでの話。卒論に始まり、博士論文、そして大学のポストについてからの苦悩や葛藤など。自伝的小説らしいけど、どのあたりまで自伝なのかは全く不明。
ストーリーは、タイトルの通り、非常に静かに進んでいきます。人も死なないし……。なのにぐいぐいと引き込まれる不思議。主人公や喜嶋先生の発見や喜びは、頭や数式の中で繰り広げられますが、その劇的さたるや、感情移入せずにはいられません。僕とて研究者ではありませんが、人よりは数学や工学には携わった身ですから、例えぬか喜びであったとしても、似たような経験はありました。ですから、こんな風に自分の経験と似たことが、明瞭な文章で書き下されていると、さながらその経験をトレースされたような奇妙な悦びがあります。
あと、理系学生あるあるが詰め込まれているので、大学に長く居座った人、研究や研究室が好きだった人は必読です。S&Mシリーズもそうですが、理系大学のリアリティをここまで克明に書ける人を他に知りません。
ただ、同時に文系のひとや、森博嗣ファンでない人が読んでどれぐらい楽しめるかというと若干の疑問